【死ぬ瞬間】



 シカゴ大学精神医学部の教授だったキューブラー・ロスは、癌などで死を宣告された末期患者200人以上にインタヴューをし、死を前にした人間がいかに死と向き合うかを調査して、一冊の本を著しました。「On Death and Dying(邦訳「死ぬ瞬間」)と題されたその本によると、人は5つの段階を経て、最後には身近に迫った死を静かに受け入れる心境に到達していきます。




第1段階~否認

「診断が間違っている」「私が末期患者であるはずがない」。どの患者も最初は医師に告げられた現実を否認しようとします。




第2段階~怒り

 否認という段階を維持できなくなると、怒りや憤り、羨望、恨みなどの感情が湧いてきます。そうした感情はしばしばまわりの人間に向けられ、その結果として孤立を招くケースも少なくないことをロスは報告しています。



第3段階~取引

 驚くほど多くの患者が、多少の延命と交換に「神に生涯を捧げる」「教会への奉仕に一生を捧げる」という約束をしていたとロスは書いています。「いい子になるから、あれを買って」とねだる子供と同じですが、これは死を先延ばししようとするあがきと考えられます。




第4段階~抑鬱

 やがて手術や体の衰弱によって、末期患者は自分の現実と向き合うことを余儀なくされます。大きなものを失ったという喪失感に襲われる段階です。この抑鬱についてロスは、「末期患者が世界との訣別を覚悟するために経験しなければならない準備的悲嘆である」と語っています。




5段階~受容

 死を受け入れる最後の段階を、ロスは次のように描きます。「もし、患者に充分の時間があり(突然の、予期しない死ではなくて)、そして、前にのべたいくつかの段階を通るのに若干の助けが得られれば、かれは自分の「運命」について、抑鬱もなく怒りも覚えないある段階に達する。」(中略)それはあたかも、痛みは去り、闘争は終わり、ある患者が言ったように「長い旅行の前の最後の休息」のための時が来たかのようである。」




 キューブラー・ロス以外にも人が人生で最大の危機に陥ったときの反応がたくさんの人によって研究されています。これは、人間が闘争か逃走かといった動物的なストレス反応以外の第3の選択をすることができる可能性があるということを示しています。そして、その受容という選択は、ロスの説明にあるように「休息」の時のようであると言います、つまり、死という圧倒的なストレッサーであっても、一旦受容すれば、そこにはリラクセーションが生まれるのです。